トランプ氏を支持している人たちとブルース・スプリングスティーンそしてレイモンド・カーヴァーが「かつて居た」世界

ご存知の通り、アメリカの次の大統領にドナルド・トランプ氏が選ばれました。

トランプ氏の持っている超高級マンション・ニューヨークのトランプタワーは、以前は「ここがニューヨークヤンキースの松井秀喜選手が住んでいる高級マンションですよ」なんて、ガイドさんが紹介してくれるようなスポットでした。

その時の逸話がいまだに受け継がれているのか、ちょっと前には同じくニューヨークヤンキースで現在活躍中の田中将大投手の住居がそこである、みたいなクイズが某番組で出されて、ご本人が否定する、など、ちょっとした話題にもなっていました。
有名人て大変だなあ。

さて、トランプ氏とヒラリー氏の支持層をわかりやすく図で見るとこんなかんじです。
赤がトランプ氏支持、青がヒラリー氏支持の州です。
見事に、沿岸部と内陸部に分かれていますね。

アメリカ大統領投票結果・州別

アメリカ大統領投票結果・州別

(※出典・ウィキペディア「2016年アメリカ合衆国大統領選挙」

世界経済の中心ニューヨーク、ハーバードやMITが拠点を置く学術都市・ボストンを擁するマサチューセッツ州、グローバルな知性をはぐくむカルフォルニア大学(ソフトバンクの孫社長もここのご出身ですね)を抱えるカルフォルニア州など、インテリ層が多い地域は、ヒラリー氏支持なことが分かります。

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トランプ氏を支持している層ってどんな人たちなの?

こ難しい話はおいておいて(できないですし・・・)、トランプ氏を支持している層ってどんな人たちなんだろう?

この話題について、ネットや新聞、ニュースなどでいろいろな意見が出されていました。

総合すると、

「主に労働者階級の白人(いわゆるブルーカラー)。キリスト教徒。学歴は低め。田舎(内陸部)に住んでいる」

こんな感じの方々のようです。

彼らがなぜ、怒りにも似た感情でトランプ氏を自分たちのスポークスマンとして選んだのか?
そう考えた時、思い出したのが、以前よんだ村上春樹さんのエッセイ「意味がなければスイングはない」。
そして、その中に出てくるブルース・スプリングスティーンとレイモンド・カーヴァーでした。

そしてそんな時、ブルース・スプリングスティーンがアメリカ文民最高位の勲章となる「大統領自由勲章」を受章することが決定したというニュースを耳にして、なんだかタイミングの妙を感じてしまいました。
(ロックミュージシャンでは、ノーベル賞を受賞したボブ・ディラン以来ですね)

ブルース・スプリングスティーンとレイモンド・カーヴァーが「かつて居た」世界

ブルース・スプリングスティーンとレイモンド・カーヴァー

ブルース・スプリングスティーンは、超有名なロックミュージシャン。
星条旗をバックに、ジーンズ姿でこぶしを振り上げて「ボーン・イン・ザ・USA」を歌い上げる姿が、ありありと思い浮かぶ方もおられるのではないでしょうか。

レイモンド・カーヴァーは、「頼むから静かにしてくれ」「大聖堂」などの作品で知られる小説家。
シンプルな言葉で深い小説を書く、ミニマリズムの名手と言われた方です。(故人です)
ヘミングウェイやチェーホフと並び称されることもあるアメリカ文学の大家ですよね。
「ささやかだけれど、役に立つこと」のタイトルは、カジヒデキさんのアルバムの曲にも使われています。
「♪レイモンドは語る~」のレイモンドこそ、レイモンド・カーヴァ―のことです。

そんな二人の共通点は何かというと、お二人とも由緒正しき(というのかどうか)ブルーカラーの家の出身ということです。

★ちなみに、「ささやかだけれど、役に立つこと」が入っているCD。いまだに聞いてます

共通項の多い二人の出自。「かつて居た世界」

お二人がどんな家に育ったか?
彼らの言葉を借りるなら、「本なんてものは家に一冊もなかった」。
そういう環境です。

父親たちは、毎日砂まみれの車に乗って製材や自動車工場などのおもしろくもない力仕事をし、夕方帰ってきては町のパブでたむろして酒を飲み、フットボールや野球をテレビで眺める。
母親たちは子育てと家事と家計に追われる。
子どもは学業など二の次で、大きくなったら父親と同じような労働者となっていく。
そして、子どもたちの多くは20代のうちに、両親と同じような流れに乗っていく。

多少の差はあれど、それがアメリカの労働者階級の人々の人生でした。
生きることに汲々とし、荒くれたざらついている、閉塞されたループの世界です。

相当の努力をしない限りこのループからは抜け出せないし、その努力の仕方や方法を、この閉塞された世界で学ぶことは極めて難しい。
「負のループ」とは言えないが、同じ場所をグルグルと回っているという意味では、もっと救いようがないかもしれない。

さらに近年になれば、ここに「移民びいき」という嫉妬の温床が生まれる。
長年自分たちがこの世界で糊口をしのいできたのに、そこに流入してきた移民たちは、仕事を奪ったうえさらに医療制度や教育制度でひいきされている。
そういうフラストレーションが、マグマのようにたまっている。

ブルース・スプリングスティーンとレイモンド・カーヴァ―が、かつて居た世界(出身地といってもいいかもしれません)は、そういう世界です。

アメリカ内陸部を車で通ったことがある方でしたら、1つや2つ、通りすがりにおそろしく「シケた」「特徴のない」町を通り過ぎた経験があるのではないでしょうか。
彼らが住んでいた世界は、まさしくそういう町です。

そしておそらくは、トランプ氏を支持する人々の大半の人々がいるステージは、ここなのではないだろうかと思います。

「ブルーカラー・ループ」から脱出を図った二人

ブルース・スプリングスティーンとレイモンド・カーヴァ―は、こういった「ブルーカラー・ループ」にはまりこんでいくことに、強い意志を持って「NO」を突きつけました。
そしてご存知の通り、実力と努力、そして幸運に恵まれ、みごと脱出を果たしたのです。

そうでありながら、彼らが表現の源泉として用いたのは、このブルーカラー・ループでした。
そこに鬱屈している怒りや焦燥やあきらめみたいなものを、ブルース・スプリングスティーンはロックンロールとして、レイモンド・カーヴァーは文学として表現してみせたのです。

レイモンドいわく、
「若い作家が自分の周りにあるものを書かなければ、何を書いたらいいんだ?」
ということです。
ナルホド。

マグマのようにうっぷんを貯めながら、ブルーカラー・ループにいる人々は自分たちの気持ちを表現する術をあまり持っていませんでした。
そこにようやく表れたスポークスマンが、ブルース・スプリングスティーンやレイモンド・カーヴァ―だったのです。

スポークスマンになろうとしていたわけではない…と思う

もちろん、ブルース・スプリングスティーンもレイモンド・カーヴァ―も、「ここはひとつ俺が代弁してやろう」というつもりで、その立場になったわけではないと思います。
彼らが叫びたかったこと=その世界に属する人々がそれまでうまく言えなかったこと。
だったというだけなのだと思います。

そしてそれは、多少の軋轢はあったにせよ、世間に圧倒的な歓迎を持って受け入れられました。

そのせいで、ブルース・スプリングスティーンは、聴衆の熱烈さと量に気おされて、自分が本当に言いたかったことと世間のイメージとの差に長い間苦しむことになるのですが、それはまた別のお話ということで・・・。
(このイメージの食い違いについては、下のおまけに書いておりますので、よかったらご覧ください)

トランプ氏は「ブルーカラー・ループ」の代弁者になれるのか?

では、トランプ氏はこの二人のように、ブルーカラー・ループの代弁者になりうるのか?

正直、う~んと首をひねらざるを得ません。
なにせ、超・超・大富豪ですし。
もちろん、それだけの財を成す力があるのですから、その能力には期待がかかるのですけれど。

つい数年前の日本でも民主党が政権を握ったように、不満をあおり、共通の敵を作って当選することは可能です。
トランプ氏とブルーカラーな人々が、分かりやすく暫定の共通の敵としたのが、スノッブでエリートなヒラリー氏だったのではないでしょうか。
そして、たくさんの人々を一つにまとめていた共通の敵がいなくなった今、そしてこれから。
新しい大統領がどのような舵を取るのか、注目していきたいと思います。

   

【おまけ】ボーン・イン・ザ・USAの誤解に苦しんだブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーンが数百万枚という大ヒットを飛ばした「ボーン・イン・ザ・USA」。
この曲は、実はベトナム戦争やアメリカの低所得者の鬱屈や行き詰まりみたいなものをうたった、かなり荒々しい歌詞です。

「アメリカに見捨てられたんだ。行き詰ってるんだ。それがボーン・イン・ザ・USAってことなんだ(アメリカに生まれるってことなんだ)」
そんな荒々しい、やけっぱちというか、どーにもならないんだよ!みたいな荒くれた内容の歌詞です。

が、盛り上がるビートのせいなのか、その頃あったロサンゼルス・オリンピックのせいなのか、はたまた大統領選挙にボーン・イン・ザ・USAの知名度を利用しようとした後のレーガン大統領のせいなのか。
皮肉なことに、アメリカ礼賛の愛国歌みたいな扱いを受けることになってしまいました。

レーガン大統領なんて、ブルーカラー・ループの対極にいる人なのにね。
レーガンさんはそんな歌詞とはつゆ知らず、ニュージャージー州での演説で(ブルース・スプリングスティーンはニュージャージー出身)
「ニュージャージーが誇るアーティストであるブルース・スプリングスティーンが歌っているような、夢や希望をあなたたち若者が叶えるお手伝いをするのが私の仕事です」
という内容のことを言ってしまって、一悶着あったということです。
鳥も鳴かずば撃たれまいて・・・。

「アメリカに生まれたんだ=アメリカみたいなろくでもない所に生まれちまったんだよ!」

「アメリカに生まれたんだ=アメリカみたいな夢と希望にあふれる素晴らしい国に生まれたんだよ!」

という解釈を受けてしまったわけです。ナンテコッタ!

「ボーン・イン・ザ・USA」はアメリカを皮肉るために、星条旗を背景にジーンズに赤いキャップを突っ込んだワイルドなビジュアルを使っていたのですが、それがまた誤解を生んでしまったようです。(下をご参照ください)

しかも、勘違いした人があまりにも大量だったものだから(数百万枚売れた超大ヒット曲です)、そちらが主流になってしまう事態に。

クライスラーが車のCMで使いたい、というオファーを出したところ、即座に断ったというエピソードもあります。

この世間とのギャップに、ブルース・スプリングスティーンはとても苦しんだということです。
「え、え、オレが言いたかったことはそんなことじゃないんだけど・・・」
という感じでしょうか。

このギャップから抜け出すことに、ブルース・スプリングスティーンはそれから長い年月と途方もない労力を必要とすることになります。
売れたら売れたで、大変なのね・・・。

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